オンラインでの生態学会(ESJ68)の感想

日本生態学会に参加した。オンラインでの大規模な学会は初めて参加した。初めての開催にはとても苦労があったはずなので、大会運営に関わった方には感謝です。

 

<良かった点>

・移動する必要がないので楽。通常ならば、開催地との往復に加えて、宿泊場所と開催場所の往復をしなければならない。下宿のネット環境が悪いので大学から参加することが多かったが、通常ならば家から参加できるという価値はとても大きい。

 

<修正した方が良い点>

・ポスターのサムネイルが並んだ方が明らかに良いと思った。

・発表がある時間を減らし、休憩時間を多めにとった方が良いと思った。

 

今後の学会で発表する上で気を付けたい点

1)図表を丁寧に説明する:個人的には、オンラインだと集中力が落ちる。スライドの情報量が多いとついていけなくなるので、図表は丁寧に説明しなければいけないと思った。

2)1演題で話すトピックは1つだけに絞る:オンラインに関わらない話だが、全体の発表内容を詰め込みすぎると理解度が落ちる。質問の時間も限られているので、話題は絞るべきだと思う。

3)図はできるだけ大きくする:オンラインでは図表が大きい必要がないと思っていたが(パソコンの画面で見るので)、発表を聞く限り、オンラインでも図表はできるだけ大きい方が良いと思った。

4)発表時間を短くする(15~20分):集中力が持たないので、発表時間がすごく長く感じる。20分程度に収まった方が、聴衆の集中を保てると思う。実際に、15分の口頭発表や20分の鈴木賞では発表内容に集中できた。

国際的に取引される仮想的な送粉サービス:仮想花粉媒介(virtual biotic pollination)の定量化

Virtual pollination trade uncovers global dependence on biodiversity of developing countries. F. D. S. Silva, L. G. Carvalheiro, J. Aguirre-Gutiérrez, M. Lucotte, K. Guidoni-Martins and F. Mertens. Science Advances. 2021. 7: eabe6636. doi: 10.1126/sciadv.abe6636

doi.org

食料は世界的に取引されている。したがって、食料生産に使われる資源(例えば水)は仮想的には世界的に取引されているといえる。仮想水(virtual water)は食料を輸入している国が、その食料を仮に生産した場合に必要とされる水の量の推定である*1。農作物の生産には送粉サービスが必要なことが多い。したがって、仮想水の概念と同様に国際的に仮想的に取引される送粉サービスは定量化できると考えられる。

仮想花粉媒介(virtual biotic pollination:以下、VP)は、 全農作物生産量のうち、野生花粉媒介者による生態系サービスによって生産された農作物の割合と定義している。野生花粉媒介者による農作物に対する送粉サービスの貢献は、自然植生と農地の間の距離を指標にして評価した。植生を300m×300mのピクセルに分け、農地から450m以内に自然植生がある場合には、その農地が野生花粉媒介者からの送粉サービスの恩恵を受けていると仮定した。

花粉媒介動物に生産を依存している55種類の農作物の2001~2015年までの市場のデータをもとにした研究によって、この研究では先進国が野生花粉媒介者による仮想花粉媒介への依存度が高い傾向があることを明らかにした。例えば、ある国ではVPは花粉媒介動物に生産を依存している農作物の輸入量の40.4%に達する。

Virtual Biotic Pollination FlowでVPの輸出入を可視化している。例えば、日本へのVPの輸入は以下の図。アメリカ、カナダ、ブラジル、ニュージーランド、中国からのVPが多い。

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日本への仮想花粉媒介の輸入(出典:https://virtual-pollination-trade.shinyapps.io/virtual-biotic-pollination-flow/

 

モクレイシの系統地理:島嶼は氷期の逃避地だった?

Refugia during the last glacial period and the origin of the disjunct distribution of an insular plant. Takayuki Yamada, Goro Kokubugata, Shinji Fujii, Chien‐Fan Chen, Akira Asakawa ,Takuro Ito, Masayuki Maki. Journal of Biogeography. https://doi.org/10.1111/jbi.14090

モクレイシの隔離分布の成立要因を推定した論文が出ていたので紹介。

モクレイシは伊豆諸島周辺と九州~台湾の大きく2地域に隔離分布するという変わった分布をしている。モクレイシのように、琉球列島と伊豆諸島に隔離分布する植物種は他にもある。この隔離分布を説明する仮説としては、1)長距離分散仮説と2)氷期における避難場所仮説がある。長距離分散仮説に基づけば、寒冷な氷期ではモクレイシは琉球列島のみに生き残り、温暖になったときに琉球列島から伊豆諸島に長距離分散された。一方の氷期における避難場所仮説では、モクレイシは氷期に伊豆諸島と琉球列島の両方で生き残り、温暖期に分散は起きなかった。この仮説を検証するために、この論文ではモクレイシを対象として系統地理的解析と生態ニッチモデリングを行っている。

系統地理的解析の結果、この2地域の間で遺伝的な分化があり、葉緑体ハプロタイプは2地域間で共有されていなかった。また、少なくとも8つの突然変異のステップが両地域の間にあった。このことは、モクレイシの隔離分布が氷期後の長距離散布によって起きたことではないことを示唆する。

生態ニッチモデリングの結果、最終氷期(22,000年前)のモクレイシの生息適地は現在のモクレイシの生息地とおおよそ一致した。しかし、現在の気候ではモクレイシの生息可能な地域である、台湾北部、あるいは四国と紀伊半島は最終氷期には生息適地ではなかった。このことは、伊豆諸島周辺と九州~台湾が氷期においてモクレイシの避難場所になったことを示唆する。

 

逆ジャンゼン・コンネル効果は種多様性を減らすか?

閉鎖花は左右相称花で進化しやすい

Repeated evolution of a reproductive polyphenism in plants is strongly associated with bilateral flower symmetry Simon Joly and Daniel J. Schoen. Current Biology (2021) 

https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.01.009

ダーウィンは閉鎖花は放射相称花よりも左右相称花で良くみられることを示唆した。左右相称花は放射相称花よりも限られた種類の動物に花粉媒介される傾向があるため、受粉に失敗しやすい可能性がある。閉鎖花によって種子生産が補償されるため、閉鎖花は受粉に失敗しやすい左右相称花において有利に働くかもしれない。しかし、放射相称花に比べて左右相称花において閉鎖花が進化しやすいという仮説は、系統に基づいた解析によって詳細に検証されてこなかった。

この研究では、閉鎖花の有無および花の相称性の情報がある378科の2,523種に基づいた解析を行った。1,695種の放射相称花のうち3.2%が閉鎖花をもち、828種の左右相称花のうち15.2%が閉鎖花をもつ。

解析の結果、左右相称花では放射相称花よりも3.8倍も閉鎖花が進化しやすいことが分かった。一方で、閉鎖花が失われる率は放射相称花と左右相称花で変わらないことが分かった。

左右相称花はその構造的に自動自家受粉しにくいかもしれない。このことが閉鎖花の進化と関連しているかもしれない。花が袋がけをした状態で自動自家受粉をする度合いに関するデータセットをもとに放射相称花と左右相称花で比較したところ(自家不和合性の種は解析から除いた)、放射相称花とくらべて左右相称花は自動自家受粉しにくいことが分かった。

自動自家受粉は花粉媒介者による受粉が限られている時に進化しやすいと考えられる。左右相称花は放射相称花と比べて特定の花粉媒介者に特殊化している傾向があるため、閉鎖花は左右相称花においてより適応的なのかもしれない。種子生産の補償として機能する遅滞自家受粉(delayed selfing)も特殊化した花粉媒介様式と関わっている。こうした自家受粉に関わる混合戦略は、花粉媒介者の利用可能性が変動する時に適応的な可能性がある。

 

侵略的な外来植物の花粉媒介におけるパラドックス

Invader–pollinator paradox: Invasive goldenrods benefit from large size pollinators.

Dawid Moroń, Emilia Marjańska, Piotr Skórka, Magdalena Lenda, Michał Woyciechowski

https://doi.org/10.1111/ddi.13221 

外来植物は、在来の花粉媒介者によって効果的に花粉媒介される。一方で、外来植物が生態系に侵入した場合、在来の花粉媒介者群集に負の影響を与えると考えられる。したがって、外来植物の侵入は在来の花粉媒介者群集に負の影響を与えるにもかかわらず、外来植物が受ける在来の花粉媒介者による送粉サービスは低下しないという逆説的な状況が起きている(Invader–pollinator paradox、図1)。

 

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図1.Invader–pollinator paradoxの概念図。外来植物の侵入度合いが高まることによって(1)、在来花粉媒介者が減少する(2)。しかし、これは外来植物が受ける送粉サービスの低下にはつながらない(3)。Moroń et al. 2021より。

外来植物への在来の花粉媒介者による送粉サービスが低下しない理由は、花粉媒介昆虫の種類によって外来植物からの影響が異なるからかもしれない。大型の花粉媒介昆虫は長い距離を飛ぶことができるので、外来植物が大面積を覆うことによる負の影響を受けにくいかもしれない。大型の花粉媒介昆虫は多くの花粉を運ぶことができるため、大型の花粉媒介昆虫は外来植物の効果的な花粉媒介者になりうる。

この研究ではポーランドのオオアワダチソウ Solidago giganteaを用いて調査を行った。オオアワダチソウに0~100%の割合で覆われた25の調査地に2株のオオアワダチソウを植えて訪花者と種子生産を調べた。

その結果、オオアワダチソウの占有率が高いほど訪花者の種数が減少するものの、訪問頻度は占有率によって変わらないことが分かった。また、オオアワダチソウの占有率が高いほど訪花者の体サイズが大きいことがわかった。また、オオアワダチソウの占有率が高いほど花序当たりの生産種子数が多くなることが分かった。さらに、訪花者の体サイズが大きいほど花序当たりの生産種子数と、生産された種子の発芽率が高いことが分かった。

この研究の結果は、オオアワダチソウが優先すると、小型の花粉媒介昆虫の訪問頻度が減ることで訪花昆虫の種数が少なくなる一方で、大型の花粉媒介昆虫の訪問頻度は増えることを示唆する。大型の花粉媒介昆虫は長距離を飛び、また多くの花粉を運ぶので、オオアワダチソウの占有率が高い場所でオオアワダチソウの繁殖成功が高いと考えられる。オオアワダチソウは自家不和合性であるため、占有率が高いこと自体が交配の可能性をふやし、繁殖成功度を高くする可能性もある。しかし、今回は2個体のオオアワダチソウを各集団に植えているため、その可能は低いと考えられる。

本研究は大型の花粉媒介昆虫が外来植物であるオオアワダチソウの侵入を加速させている可能性を示唆する。花粉媒介者と外来植物の生活史特性を明らかにすることは外来植物の管理において重要だと考えられる。

 

Angiosperm353を用いた、被子植物の網羅的な系統ゲノムデータ

PAFTOL(The Plant and Fungal Trees of Life )はキュー王立植物園のプロジェクトであり、被子植物(全14,000 属)と真菌(全8,200属)の全ての属の系統ゲノムデータ(phylogenomic data)を集めるという野心的なものである。

被子植物に関してはAngiosperm353という353核遺伝子を対象としたユニバーサルなターゲットキャプチャープローブを用いて、被子植物の全属の系統ゲノムデータを集めることを目標にしている。このプロジェクトの概要は以下の動画で紹介されている。

www.youtube.com

昨日、そのプロジェクトの最初の成果に関するプレプリントが出た。このプレプリントでは、被子植物の64目(全ての目)、 404科 (96%の科)、2,333 属 (17%の属)の結果が含まれている。

A Comprehensive Phylogenomic Platform for Exploring the Angiosperm Tree of Life | bioRxiv

このプロジェクトで得られたデータや系統樹はオープンにされており、Kew Tree of Life Explorerで見ることができる。

treeoflife.kew.org